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  • [連載:マニアックレンズ道場14]SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary 実写チャート性能評価
    超人気の小型高性能・標準ズームはなぜいいのか?


 

F2.8通しとは思えない小型軽量、しかも高解像でぼけもきれいな標準ズーム


デジタル補正を積極的に活用したレンズ設計


今回は発売から大人気でいまだに品薄なF2.8通しの標準ズーム「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」を紹介します。「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」については、電子書籍「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary レンズデータベース」(https://www.amazon.co.jp/dp/B0981MV9CV/)などを制作するために、「解像力」「ぼけディスク」「軸上色収差」「最大撮影倍率」「周辺光量落ち」「歪曲収差」「サジタルコマフレア」といった各種チャートやテスト、さらに実写作例も撮影しましたので、「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」の結論から述べると下記のとおりです。


「F2.8通し標準ズームの最大の弱点大きく重いを改善、しかもフルサイズでしっかり周辺部まで解像、さらにズームとは思えないほどぼけもきれいな1本」

「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」のおすすめポイントは

「F2.8通しの標準ズームの最大の不満「大きい・重い」を解消」

「小さくて軽くても、35mm判フルサイズの周辺までしっかり解像」

「非球面レンズ3枚採用ながら、ズームとは思えない美しいぼけ」 の3つ。

気になるポイントは 「デジタル補正ありきの設計が嫌いという人もいるのでは」 といったところです。

対応マウントはソニー Eとライカ Lのふたつですが「F2.8通しという明るくて高性能な標準ズームを味わってみたいすべての方におすすめ」。

一方「いまだにデジタル補正は認めない光学性能至上主義の方にはおすすめできない」レンズといえます。 この結論に至った、それぞれのポイントを各種チャートや実写などから解説していきます。

 

 

驚きの小型軽量

 

光学性能が心配になるほど小さい

 

 

まずは、手に持ってみました。レンズが小さいのではなく、手が大きいのでは? と疑う方もいるでしょう。しかし、写真の写っている筆者の手は、軽く開いた状態で親指の先から小指の先までの距離が約17cm。成人男性の手としては小さめといえるでしょう。F2.8通しの35mm判フルサイズ対応の標準ズームとは思えないほど「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」が小さいのです。


メーカー公表のサイズは最大径72.2mm、長さは103.5mm、質量は約470g。これがわかっていても、実際にテスト前にはじめて手にしたときに、小さすぎて、本当に35mm判フルサイズ対応なのか? APS-C向けだったかと思い、スペックを再確認したほどです。


そんな「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」の実際のサイズを測定した結果をみていただきましょう。

 



筆者の勝手な思い込みでなければ、F2.8通しの標準ズームといえば、最大径ではなくフィルター径で77mm、最近の24-70mmF2.8の高性能なものになるとフィルター径が82mmなんてことも珍しくないでしょう。しかし、「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」のレンズフードなしの最大径は約72mm。フィルター径は67mmです。最近は24-70mmF2.8が主流なので「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は広角が4mm長いですが、かなり細いレンズなのがわかるかと思います。


ちなみに質量は、前後レンズキャップとレンズフードまでを装着した収納状態で500gちょっと。多くのメーカーの24-70mmF2.8がレンズ単体で1kg近く、レンズによっては1kgを越えることを考えると約半分といってもよいほどに軽くなっているのです。


F2.8通しの標準ズームは、基本的に高性能なものが多いこともありますが、一度使うと、その明るさと描写、使いやすいズーム焦点距離と手放せなくなります。しかし、いままではさすがに大きくて、重いので撮影に持っていくのに気合いのいるレンズでした。しかし、「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は完全に普段使いできるF2.8通しの標準ズームといえるでしょう。 

 


周辺部まで高い解像力

 

35mm判フルサイズでもしっかり解像

 

「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」をはじめて手にしたとき、予想以上に小さくて、筆者はAPS-C用レンズだったかとスペック表を見直ししました。それくらい本レンズは小さい。とはいえ、35mm判フルサイズの大きな撮像素子に対応して、しかもコンパクトというのはハードルが高いわけです。実際、APS-C向けとすることで、小さくて高性能なレンズを実現している例もたくさんあります。

しかし「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は35mm判フルサイズ対応のF2.8通しの標準ズームレンズなわけです。その解像力をまずはチャートからみていきましょう。

 

 

まずは、広角端の28mmからです。


中央部分からみていくと、絞り開放のF2.8から、解像力もシャープネスも高く、基準となる0.8のチャートをしっかりと解像しています。解像力があまくなるのは、絞り過ぎのF16。絞り過ぎによる解像力低下の影響はF13くらいから軽く発生します。基本的にF13未満で好きな絞りを選択して問題ないでしょう。

さらにチャートの周辺部分は、さすがに開放では周辺光量落ちなどの影響もあり、あまくなっています。しかし、絞るほどに解像力がアップ。F4.0でワンランクアップしたあとは、F8.0からF11でピークを迎えます。このピーク当たりまで絞ると解像力の高い中央部とほぼ変わらない解像力が得られるのは、ズームレンズでありながら、さすがです。絞ると周辺部まで高解像なレンズです。 

 

 

望遠端の70mmについても、解像力チャートをみていきましょう。有効約4,240万画素のSony α7R IIIとの組み合わせで望遠端も撮影しているので、基準となるチャートは同じく0.8です。


中央部分は、70mm側でも絞り開放から、かなりシャープ。こちらも絞り過ぎによる解像力低下が発生するF13あたりまで好きな絞りで撮影して問題ありません。


一方、周辺部ですが、絞り開放ではややあまいのですが、十分に解像しており、絞るとさらに解像力がアップ。F5.6前後で、開放のF2.8よりワンランクアップ、F8.0からF11が全体解像力のピークです。F11あたりでは、周辺部も中央部とさほどの遜色ないレベルで解像するのはズームレンズとしてはさすがです。少し気になるのは広角側よりも、ややシャープネスが弱い印象なこと。


ちなみに各種チャートは基本的にカメラの初期設定で撮影しているため、「レンズ補正」は「オート」。この効果により歪曲収差や倍率色収差などはほとんど観察されませんでした。


解像力チャートからは、非常にコンパクトなF2.8通しの標準ズームとは思えない高い解像力が確認されました。


さらに実写作例も確認しましょう。

 

SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/Sony α7R III/28mm/絞り優先AE(F8.0、1/20秒)/ISO 100/露出補正:-0.7EV/WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド

 

函館山の山頂から市街地を撮影した1枚です。雲海というか、朝霧というか、微妙なものが発生していまして、解像力的にあまり有利な条件とはいえません。しかも、日の出前とはいえ、軽く逆光です。しかし、拡大してみると、下のようになりました。

 


 

Photoshopで200%表示にして、函館市水産物地方卸売市場の駐車場あたりを確認しています。肉眼ではまったくみえませんが、仕入れなどのための集まっている駐車場のクルマを台数が数えられるレベルで解像しているのがわかります。また、画面手前側では朝霧の影響が弱い状況でしたが、奥に行くほど霧の影響が強くなっていく、状態の描写も非常に自然です。

筆者は、こんなに小さくして、解像力的は本当に問題ないの? などと勝手に心配していましたが、「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、35mm判フルサイズに対応するF2.8通しの標準ズームレンズとして、周辺部まで十分な解像力を発揮してくれることがわかりました。

 

 

ズームとは思えないぼけ

 

非球面の影響が少なくなめらかなぼけ

 

コンパクトで明るいズームレンズながら、高い性能を確保するために「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、非球面が3枚、さらに特殊低分散のFLDガラス2枚、SLDガラス2枚と特殊レンズが多数使われています。特に非球面レンズは、玉ぼけのなかに木の年輪のようなシワを発生させる輪線ぼけの原因ともいわれ、これらがぼけにどの程度影響を与えるのかが、気になるところです。

まずは、ぼけディスクチャートからみていきましょう。

 




 

画面内に意図的に玉ぼけを発生させて、その様子を確認するぼけディスクチャートは、ぼけのディスク(玉ぼけ)がより真円に近く、フチ付きや色つきがなく、内部がフラットでザワつきのないものほど、なめらかで美しいぼけが得られると判断できます。


写真上が広角端28mmのぼけディスクチャートです。


9枚羽根の円形絞りを採用しているためか、形はとても美しい。絞り羽根の枚数が多いこともありますが、設計が優秀なのでしょう。また、ぼけのフチつきはみられますが、色つきがほぼみられません。さらに懸念していた輪線ぼけの影響も軽微です。線が発生するというよりも、ぼけのディスクの内部に小さなツブツブが同心円状に並ぶサワサワとした状態。過去の経験からいって、このパターンは完全にフラットでなくても、美しいぼけが得られることが多いと感じています。

続いて、写真下の望遠端70mmのぼけディスクチャートをみていきましょう。


どうしても28mm側と比較してしまいますが、広角端側のぼけディスクチャートがフラットなのに対して70mm側はフチから一度膨らんで真ん中がまたくぼんだような立体感があります。また、輪線ぼけの影響も広角側より強い印象です。さらにフチへの色つきが少し強くなっています。形はとても美しく、なかも大きくザワつくというよりは、小さなツブツブが並ぶ、サワサワとした印象で美しいぼけが得られる傾向なのですが、広角端に比べるとやや劣る印象です。


どちらもズームレンズの望遠端と広角端にしては十分に美しいぼけが得られる結果ですが、さらにチャートで検証しましょう。

  



 

掲載したチャートは軸上色収差を確認するためのチャートです。このチャートの下部で前ぼけと後ぼけのなめらかさなどの傾向も観察しています。上の写真が28mmのもので、下の写真が70mmのものです。


どちらもかなり美しいぼけが得られる傾向。大きくザワつく傾向は感じられないのですが、28mm、70mmともに後ぼけよりも前ぼけがわずかにザワつくでしょう。また、どちらもズームレンズとは思えないレンズの美しいぼけですが、28mm側のほうがよりなめらかで美しい傾向を感じました。

 

SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/Sony α7R III/60mm/絞り優先AE(F2.8、1/160秒)/ISO 2500/露出補正:+1.3EV/WB:晴天/クリエイティブスタイル:ビビッド

 

広角端よりもぼけがザワつく傾向の望遠側で撮影しましたが、背景のぼけはかなり素直です。明るい開放のF2.8との組み合わせで、室内でポートレートを撮影するにもおすすめ。しかも「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、最短撮影距離が広角端で19cm、望遠端で38cmと近接撮影にも強いので、室内ポートレートだけでなく、自宅や外食の際のフード撮影にも向いています。

  

 

レンズ補正の功罪

 

デジタルレンズ補正をありきのレンズ設計

 

「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」で各種チャートを撮影した結果は、どれも十分に満足のいく素晴らしい結果です。しかし、従来のレンズでは、こんなにコンパクトで高性能にできなかったのには、理由があります。ミラーレス一眼用レンズである「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、一眼レフ用のレンズなどと異なり、かなり積極的にカメラ本体による「レンズ補正」を活用しているのです。実際、今回撮影に使用したSony α7R IIIは初期設定で「レンズ補正」の「周辺光量補正」「倍率色収差補正」「歪曲収差補正」がすべて「オート」。もともとデジタル補正したほうが楽な周辺光量落ちや歪曲収差、倍率色収差などはカメラ本体で補正するほうが効率もよく、レンズの小型高性能化が行いやすいといわれていました。しかし、一眼レフでは、ファインダー内で補正されていない画像をみながら撮影し、撮影された画像は補正された状態という現象などが起きるため、ミラーレス一眼用レンズほどの積極的にカメラ内レンズ補正に頼るという思想は主流ではありませんでした。しかし、ミラーレス一眼用レンズの設計では、レンズ補正ありきで設計するのが、当たり前というか、すでに常識といえるでしょう。

 

 


掲載した画像は、「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」28mm、絞り開放の「レンズ補正」「オート」(左)と「レンズ補正」「オフ」(右)の様子です。かなりはっきりと周辺光量落ちを補正しているのがわかるでしょう。ちなみにわかりやすいので周辺光量落ちの様子を掲載しましたが、歪曲収差や倍率色収差についても、かなりカメラ本体のデジタル補正の恩恵を受けています。


「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」はミラーレス一眼用レンズという条件を上手に活用して、カメラ本体のデジタル補正の効果を最大限に利用して、小型軽量で高性能を実現しているといえます。筆者は、これをプラスに評価しています。しかし、レンズ光学性能だけにこだわる方には受け入れられない部分もあるかもしれません。

 


SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary/Sony α7R III/28mm/絞り優先AE(F8.0、1/400秒)/ISO 100/露出補正:+0.7EV/WB:オート/クリエイティブスタイル:ビビッド

 

ズームレンズの広角端で撮影すると、画面の四隅で周辺光量落ちしているのが、よくわかることもあります。「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は、カメラ本体のデジタル補正を組みあわせることで、そんな心配なしに撮影が楽しめます。


最終的な画質に問題がないのであれば、筆者はレンズとカメラそれぞれの利点を活かしてもらうほうが便利だと考えているのです。

 

 

まとめ

 

最高に幸せな小型高性能なF2.8通しの標準ズーム

 

もう20年以上前に、はじめてのデジタル一眼レフと購入したレンズが28-70mmのF2.8でした。F2.8通しの標準ズームというと、各ブランドで大三元レンズの標準などと呼ばれ、そのブランドを代表するような高性能なレンズが多いのも特徴です。そして、写りも素晴らしい。ただし、多くが大きくて、重い。実際、シグマにも「SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art」もラインアップされており、重さは800gを越えます。これに対して「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」は400g台。約半分といえるわけです。 使いやすい焦点距離と明るい開放F値、しかも高性能と、F2.8通しの標準ズームはいいことだらけ。それでも筆者にとって仕事のメインレンズになっても、常用レンズにならなかったのは、その大きさと重さが原因でした。「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary」はミラーレス一眼用レンズというアドバンテージを活かし、カメラ本体のデジタル補正を積極的に活用。高性能を維持したまま、軽量小型という、最高に幸せなF2.8通しの標準ズームになっています。はじめて明るい標準ズームを買うという方はもちろん、すでにF2.8通しの標準ズームをお持ちの方にもおすすめの1本です。

 


 

●SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryの基本スペック

対応マウント:ソニー E、ライカ L

レンズ構成:12群16枚

絞り羽根枚数:9枚

フィルター径:67mm

大きさ:Φ約72.2×103.5mm(ソニー Eマウント)

質量:約470g(ソニー Eマウント)

実勢価格:100,000円前後

 

(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壮二)

 


 【Text&Photograph:齋藤千歳】 

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